先日、天法酒造より一方的な特約店解除の
通知が来ました。
これだけしか書かなければ、当店に一方的な過失があったように思われてしまいますので、経緯についてお話しします。
天法酒造は、以前このページにも書いていた通り平成9年創業です。
近年の焼酎ブームの影で、清酒需要は右肩下がり。
そうした時期に、社長の「永年の夢」であった蔵元を購入し、運良く瀬川氏という名杜氏に恵まれスタートしました。
購入時は、以前の蔵が廃業して10年余が経過していましたから、手直しや設備投資も必要でした。
そんな時に力になってくれたのが、醸造設備から瓶のキャップに至るまで取り扱っている○○醸機のY氏でした。
当時はまだ「山田錦」は前年実績に応じた割当制でしたので、新規参入の天法には通常ルートでは実績などあるはずがありません。
その話を聞いたY氏は、
「瀬川さんほどの杜氏が来てくれるのに、山田錦が手に入らないとは...」
と嘆き、
「私が何とかしましょう」
と兵庫県産の山田錦を大量に買付けしてくれました。
その米は、灘の某大手メーカーが村ごと契約している物の中から一部を横流ししたものでしたが、その大手にとってはその程度の流出も分らない程度の量だった
とか..
杜氏さん、蔵人さん以外は全て素人でしたが、何とか船出し、数年かけて県内でも注目の蔵元になったものと思われます。
スタート時から、我々酒販店は社長(本業は青果卸業)に対し、
「利益が出るのは20年以上先の話」
と言っていましたが、本業の最大の取引先であるダイエーの不振もあったのでしょうが、
「天法酒造単体で、決算を黒にしろ」
との命を下し、牽引役として誰もが知っている大手マヨネーズ会社から専務としてU氏なる人物を招き入れました(3年前の話です)。
結論から言えば、このU氏は全てが机上の理論でした。
1.販売店の拡大
2.コストの削減
3.在庫の圧縮
一般企業では、この3点は常識的な話でしょう。
しかし、日本酒業界ではこの常識が通用しない部分があります。
1.販売店の拡大について
既存の販売店には無名の酒を育てたという想いがあります。
お客様がどこかで口にして、
「美味しかったから探したらこの店にしかないんですってね」
とご来店していただく事が酒販店の存在価値だと思います。
良心的な蔵元さんは、近くに既存の取扱店があれば断るか既存店の許可を得てからの取引きとなります。
U氏の急激な拡販は、既存店に不信感を与え、販売意欲の低下を招きました。
しかも価格訴求の業務店卸業者が新規店に名を連ねていたことが、更に拍車をかけました。
最近では東北地方のディスカウント店にも並んでいるそうです....
2.コストの削減について
天法の場合、社長にも問題がありました。
昨年の4月に、県内の某酒造会社さんからの噂で、
「天法は昨年秋に購入した米の代金が未払い」
というもので、真偽を確認したところ、その噂は本当でした。
しかも、その未払いの相手先は、創業時の部分で書いた○○醸機のY氏でした。
天法の社長は一代で財を成した人物ですが、そうなるにはやはりかなりの人を泣かせてきたのでしょう。
税金など「官」に対しては即金で支払い、取引業者には支払いが悪いというのが長年の習慣のようです。
この習慣が原因で、○○醸機のY氏は納入価格を若干割高としていました。
ここに中途から入って来たU氏がコストの洗い出しを始めたことで、U氏は別業者に乗り換えをしてしまったのです。
創業時とは情勢が変わって、山田錦もだぶつき気味と言いますから、仕入ルートは何とでもなったのでしょう(品質は別問題として)。
純米吟醸が昨年、全量山田錦から、山田錦&美山錦併用になったのもこの辺が原因です。
キャップや瓶、箱などの資材なら判りますが、品質低下につながる変更であり、それを受入れざるを得なかった杜氏さんを考えるとやりきれない思いでした。
瀬川杜氏が与えられた条件で最高の仕事をした作品という想いだけで繋がっていました...
3.在庫の圧縮について
八百屋とマヨネーズ屋ですから、酒の熟成には理解も感心もないようです。
杜氏さんの名を冠した限定品「瀬川」の扱いについて提言したことがあります。
1年目こそ、大吟醸は7月発売、純米大吟醸は10月発売となりましたが、2年目からは4月に発売となりました。
当店で熟成させた大吟醸「第壱号」を飲んだ方にはご理解頂けると思いますが、瀬川杜氏の造る酒は熟成してこそ真価を発揮するものだと思います。
ですから、限定品である「瀬川」はしっかりと熟成させて、黒龍の「石田屋」のような扱いにすれば、より商品価値が高まるのではないでしょうか?という提言
でした。
しかしながらU氏からの回答は、
「何で高額商品を寝かせなきゃいけないの?買ってくれるところがあるならすぐにでも出荷しなさい」
というものでした。
昨年末には、販路の拡大で本醸造が一時欠品となりました。
年が明けて、出来たばかりの新酒が瓶詰めされて出荷されましたが、味のギャップで一部のお客様が離れたことも事実です。
こうした事を避けるために、蔵元にとっては適正な在庫というのは必要なことなのですが、U氏には 在庫=罪庫 でしかありませんでした...
上記の通り、特に創業時からの取扱店には、蔵元への不信感と販売意欲の低下があり、はっきりと数字に現れていたのでしょう。
3月末に、更なる机上の理論展開を行い、大リストラ案を策定しました。
それによると来期は造りを半分に減らし、それに伴い蔵人や従業員も最小限に削減するそうです。
さらに、販売店を減らすことで希少価値を高めることを目指す(?)そうで、その削減対象として近年大きく数字を落している古くからの販売店が一斉に対象と
なったようです。
一部の酒販店さんは、一方的な通知(当然ですが社長名で来ました)が届いた時点で、社長に問い質したそうですが、
「お好きなようにしたらいいじゃないですか」
と他人事の返答だったそうです。
その酒販店さんは怒りが収まらず、造りを終えて岩手に帰っている瀬川氏に電話したそうですが、取締役である瀬川氏には一切知らされていないそうです。
蔵元では瀬川杜氏の移籍を防ぐために取締役に就任させていますが、今の状況ではいつまで造りに来てくれるのか?です。
最近、風の噂で、U氏が退社したとか...
かき回して、いなくなって、この先どうなるんでしょうか?
瀬川杜氏に汚点として残らない事を願うのみです。